クリスマスの夜に。

2018年12月25日

最後のお客さん。

クリスマスの夜に、あるパティスリーが静かにその役目を終えました。
特製の似顔絵ケーキも、季節のオリジナルケーキも、併設するカフェも人気で、いつもお客さんが途絶えなかったパティスリー。
私自身も、何度も取材で伺っているし、彼女と彼女のつくるスイーツが好きで、個人的にもたびたび訪れていました。
けれどもお店の女性店主は、ある思いを胸に、クリスマスの夜に、お店を閉めました。

最後のお客さんは、私でした。

地元・遠方問わず人気のパティスリー。

今日が最後だということを知っていた私は、閉店間際に一目彼女の顔を見たくて、お店を訪れました。
ショーケースには、わずかなケーキ。私には、お店がいつもより広く感じられました。

「もうほとんど売れちゃって。ありがたい限りよね。いろんなお客さんからお花とかもいただいちゃった」。

これまで5年間、この店で大好きなお菓子作りを続けてきた彼女。そのかわいらしい見た目のスイーツは、インスタにもハッシュタグの常連。その結果、口コミだけで遠方からもお客さんが訪れるほどの大人気店になりました。

しかし、お店が有名になればなるほど、彼女はあることについてわだかまりを感じていくようになったのです。

それは、「一人の人としての生き方」でした。

「お願いだから、最後は笑顔で送り出して。」

彼女には、2人のお子さんがいます。

家を出れば自分は人気パティスリーの店主で、家に帰ればお母さん。お店が売れるのは嬉しいけど…帰ってから子どもの相手が満足にできない自分が嫌で。
「インスタを見て来ました!」ってお客さんに言われても、インスタがなにかもわからない。お店のインスタを立ち上げるヒマもないくらいに、忙しかったから。
実家の親も気がかり。いつも面倒を見てくれる夫にも申し訳ない。
求められるスイーツではなく、私が好きなスイーツを作りたい。
外の世界をもっと見たい。知りたい。
私の、私だけの生き方がしたい。

お店はなくなってしまうけど、悲しい最後じゃないの。
それどころか、今日からは、今までやれなかったことをたくさん吸収する時間。次はどんなお店にしよう?って今から考えているんだもの。
一人の女性として、たくさん楽しみたいこともあるし、一人のお母さんとして、子どもとたくさん遊びたいし。
…大丈夫!だからね、お願い。
最後は笑顔で送り出して。

私と彼女の生きる道。

私にも、当てはまることがたくさんありました。
彼女の生き方に、いつしか自分を重ねていて、とても他人事のようには思えず。
スキルを磨く。パワーを養う。やりたいことをする。
私らしいと思える生き方をする。
決意を新たにした彼女から、クリスマスプレゼントをもらったような気持ちになりました。

彼女と私は、これからはお友達として、連絡を取り合うことに。
交換したラインには、こんなメッセージが。

「互いに新しい人生、がんばろうね!応援してるからね」

私も頑張らなきゃ。彼女のようにいつも明るい笑顔でいたいから。

本日も、皆様にとりまして、笑顔あふれる一日となりますよう。


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